相変わらずで ごめんあそばせvv
         〜789女子高生シリーズ
 


     



  さても困った結果が出た。


登録表から確認し、正当な所有者が判った途端、
話が 尚のことややこしくなっちゃったぞと、
ひなげし、白百合、紅ばら、
三華様たちが 愛らしいお顔を見合わせてしまわれる。
まずはスカーフとセーラー服の年次が合わず。
もしかして制服の方が3年前の卒業生の物であれば、
やはり青の校章を縫い取られていたはずだから、
知り合いのお姉様から制服を譲ってもらったということもあり得る。
はたまた、先程 平八が言いかかった“例えば”も、
もしかしたなら“あり”かな…というところだったのだが、

 「両方とも今現在の在校生だったとはね。」

意外や意外、セーラー服の方もまた、
思い出の品がこっそりとなくなってたんじゃあなくて、
現役バリバリで使用中のが ネットで売り飛ばされかかってたわけで。
だが、そうともなると不整合が生じる。
くどいようだが、
じゃあどうして一ノ瀬さんとやらは届けを出していないのか。
予備のがあったんで、
盗まれてからも通学には支障をきたしていない…とかどうとか、
そういう問題じゃあなくて。

 「家に置いてて盗まれたとしたっても。
  何でまた、それを通報してないんだろ。」

泥棒が入りましたということ、
公けになると家名に傷がつくとかいうお考えからだろうか。
島田警部補こと勘兵衛様が 話の始めの方で例に出した“大権門”ならば、
専任の警備部が恥をかくからとか、本家の誰それに厭味を言われるからとか、
もしかしてそういう事情から、家長様が体面を優先してのこと、
もう着ることもないセーラー服なぞ諦めろ…という
非情な運びになることもあるやも知れないが。

 「でもそれって、泥棒の世界じゃあ
  “あの家ちょろいぞ♪”って嘲笑され続けるだけなのにね。」

ちっとも合理的じゃあないよなぁと平八が唇を尖らせた傍らで、
七郎次もうんうんと頷きながら、

 「それに、
  一ノ瀬さんトコは そういうややこしいお家じゃないよ?」

確か お父様は一級建築士で、設計事務所を経営しておいで。
結構 著名な記念館とかデザイナーズマンションとかを手掛けていらっしゃる。

 「大きなお仕事をこなされてもいるけれど、
  仕事の質じゃあなく そういう方向での外聞とか、
  気にするようなところはないと聞いてるけどなぁ。」

所属は違うが、そういうことまで知っているほどには
主将同士、親しい間柄の白百合さんであるらしく。
だからこそ 何か訝しいと、
どこがどうとは言えないが、話の流れに不具合があるようでと気になっておいで。
持ち主が判っても謎が尽きないぞどうしようかと、
七郎次と平八がまたぞろ困惑に頭を抱えかかっておれば、

 「ここで推理してみても始まらぬ。」

どんなに筋道通る答えが出たとしたって、
ここでのそれは あくまでも推論察止まりで真実ではなし。
それより持ち主が判明したのだ、
届けに行こうじゃないか…ということか。
質実剛健、論より証拠。
畳のお部屋にもしっくり馴染む、
ちょみっとレトロな籐製のチェアから立ち上がると、
そのまま出て行こうと仕掛かったのが 紅ばらさんで。
何とも勇ましかったが、でもそれって…

 「いやいやいや。久蔵殿、そうは行かないんだって。」
 「??(え? なんで? だって…)」
 「いや・うん、確かにこの制服は一ノ瀬さんが誂えたものなんだけど。」
 「???(それを調べていて、結果も出たのでしょう?)」
  ※一部、シチさん目線でのバイリンガルでお送りしております

登録してあったのなら間違いないんだ、一刻も早く持ち主に返そうよと、
至極当然なことを思っての、立ち上がった紅ばらさんだったようだけれど。
そして、その理屈もあながち間違ってはないのだけれど。

 「これはどうやら盗まれたものらしいので、
  誰が犯人かが判るまでは“証拠品”扱いなの。」

ご本人が警察関係者でもないながら、
好いたらしいお人がこれを巡る一悶着を手掛けておいでな以上、
久蔵殿にだって勝手はさせませんよとばかり。
白百合さんがメッと制し、
次男坊、もとえ紅ばらさんが“えー?”と鼻白らんでおれば、

 「…でも、それって満更
  外してはないかも知れませんよ? シチさん。」

 「はい?」

今度は平八までもが、そんなことを言い出して。
もうもう、二人掛かりでどういう無体を言いますかと、
慈愛の微笑みが似合うと評判の、それは繊細な口唇の端が
ついつい ひくくと引きつりかかった白百合さんだったものの、

 「だから。
  一ノ瀬さんは制服を新調なさったのかもしれない。」

そうと言ってPCの画面を指差すひなげしさんであり。

 「この表は学校サイドのなので、発注状況までは判らないんです。」

なので、シリアルナンバーと持ち主を照合出来るところ止まり。
採寸したり仕立てたり、それをお届けしたっていう記録の管理までは、
学園のお仕事じゃあありませんからね。

 「さっき勘兵衛さんにシチさんが注意したような、
  いつ、どのタイプを新調したかとか、何処のサイズをお直ししたかとか、
  そういう詳細は、洋品店のほうのPCに管理されてるんだと思われます。」

もしかして、こっちの制服は
袖がキツイとかスカート丈が短くなったとかいう事情から、
もう着ないものとして、
普段使いじゃあないタンスへ引っ込めた方かも知れず。

 「あ、それじゃあ…。」
 「ええ。もしかして、これが失くなってることへ
  一ノ瀬さんもご家族もまだ気がついていないのかもしれない。」

スカーフが別の人のだったってくだりも、
そうそう難しい事情なんかじゃあなくて。
これを盗み出したはいいが、スカーフがなけりゃあ完璧とは言えぬ。
梱包箱なしだとプレミア価格ががたっと落ちる
年代限定物と同んなじと案じた犯人が、

 「誰のでもいいからって そこいらで引ったくったら、
  一年の彼女のだったってことなのかも知れない。」

 そいや、一年生の落とし物に多いんですってね、スカーフ。

 結ぶのに慣れてない子が、
 形が気になるからって結び直すことが多いのでしょうよ。

 風も強いし。

 そうそう、そういう時期ですものね。

何とはなく、話が回り始めたのを弾みづけとし、
三人娘が今度は揃ってバタバタッと立ち上がる。
平八の部屋にいたのを幸い、寄り道組の七郎次と久蔵の二人が、
こちらへ居候させといてもらってた普段着へとお着替えし。
忘れちゃいけない、
陽焼けどめの乳液を、腕や手の甲、首元へ手早く塗って。
姿見で髪やら口元やら お洋服のしわやらのチェックも済ませると、

 「勘兵衛様、ゴロさん。」

トートバッグに問題の品一式をすべり込ませての、さて。
お嬢さんがたがすっかりお出掛けの態で、
お茶の間で待つ保護者のお二人へと声をかける。
板敷きのお廊下をとたとたと、
三人揃って移動していた足音は拾っていたが。
まさかに玄関へ向かおうとは思わなかったか、
おいおい如何したかと遅ればせながら出て来た男性陣へ、

 「アタシたち、これから確認に行って来ます。」
 「確認?」

勘兵衛や五郎兵衛にしてみれば、
文字通りの密室で何がどう展開したかまでは判らぬのも仕方がなく。
パフスリープになった短いお袖だけがレース使いのブラウスやら、
透け感のある化繊のオーバーブラウスタイプのトップスに、
ちょっぴりレトロなタイプの
花柄テキスタイルがにぎやかなクロップドパンツやら。
紺のストライプが目に鮮やかなテイラードシャツと、
長い御々脚が映えるミニキュロットという組み合わせの軽快ないで立ちやら。
ああ初夏だねぇと思わせる恰好へ、
いつの間にやらお召し替えをしていた彼女らなのへと、
おお眩しいと面食らっておれば、

 「はい。
  お宅まで行って
  “お気づきではないようですが、
   これがフリマに出されていたので もしかして…”と、
  遠回しに訊いて来ますね。」

 「ちょっと待て。
  お主らはシリアルナンバーを見たからこそ
  持ち主を割り出せたのだろうが。」

フリーマーケットで現物を見ただけで、
あっ誰某さんのだと判った…という説明では、
理屈的な背景が足りぬのではないかと。
やりとりをしつつも はや出掛けんとしているお若い機動力相手に、
なかなかの反射で ごもっともな反論を続けかかった勘兵衛へは、

 「大丈夫ですよう。
  一緒に いちの…むにゃさんの
  名前の入った私物もあったって誤魔化しますから。」

そりゃあ朗らかに、だがだが、返事も待たずの置き手紙ならぬ置き言葉にて、
それじゃあと たったか出てった彼女らであり。

 「さすが、
  かつて名軍師の下で活躍した副官だけのことはありますなぁ。」

 「………。」

白百合さんの鋭い機転へ、五郎兵衛殿が感服したものの、
警部補殿には、あんまり慰めにはならなんだようでございます。(苦笑)




     ◇◇◇


あんまりお付き合いのない身でいきなり押しかけるのは、
さすがに問題もあろうけれどと、
そこはそれなりの世界で育って来た七郎次だけに、
マナーのいろはくらいは心得てもおり。

 「大丈夫。
  バレー部と剣道部ってトレーニングは結構同じことやってるもんだから、
  合宿で同じところに行ってたりしていて交流はある方なの。」

実はご自宅へも、
どっかの大会帰り、荷物運びのお手伝いとして
玄関までご一緒したこともあったので。
何で知ってるの?という不審は持たれないはずだと。
編み上げのデザインが涼しげなグラディエータサンダルも
今日ばかりは勇ましく見えるよな足取りで、
悠々と闊歩なさっている白百合さんだったりし。

 「えっと、隣りのホームですね。」

試験直前ということで部活動は原則禁止となっており、
バレー部の主将である一ノ瀬さんも もうとっくに帰宅しているはず。
JRを使って移動し、最寄り駅にて降り立てば、
こちらもなかなか閑静な住宅街へ直結しており。
ご町内の区切りとなろう辻ごとに、
桜やスズカケ、ハリエンジュなどというテーマツリーが植えられてあったり、
広々した芝生の前庭と通りとを区切るような、
生け垣や柵を一切設けていない、
アメリカの映画に出て来そうな区画があったりと。
モデルハウスの展示場でも
こうまで鮮やか見事な取り組みはないぞというよな、
見るからに楽しい家並みが続く。

 「もしかしたら、一ノ瀬さんのお父さんも
  こういう整備に参加しておいでなのかも知れないね。」

 「ですよねvv」

木洩れ陽きらきら、土の匂いも爽やかな、
心地のいい初夏の町なかを、時折 番地表示を確かめつつ進んでゆけば、
やがて目的のお宅へ 無事に到着を果たしており。
奇を衒ってこそないが、感じのいいデザインハウスで、
スレート屋根の一部が斜めになってる一角があって、
天体観測にちょうどいい屋根裏部屋があるんだよと、
のちに聞いたりもするのだが、今はそれもさておいて。
チャイムを鳴らして来意を告げれば、程なくしてドアが開き、

 「草野さん? 珍しいね、どうしたの?」

黒いままでパーマっ気もないショートカット。
少し伸ばした前髪を、サイドへまとめてヘアピンで留めておいでで。
ちょっぴり目ヂカラの強そうな、
でもでも表情豊かで、声を掛ければ人が自然と集まって来るタイプ。
ポイントゲッターなのか背も高く、手足もしゅっと締まっており。
夏向きのTシャツにメッシュのベストを重ね、
ジャージ素材のキュロットパンツを合わせた普段着姿も様になる、
いかにも朗らかそうなスポーツ少女という印象の、
一ノ瀬さんご本人が顔を出す。
学校じゃあ声を掛け合っていても、
互いのお家を行き来するほどの仲良しでもなく。
しかも前もっての約束もない唐突さ。
学園行事関係の連絡ならば、メールや電話で済むだろに、
一体どうしましたかと、門扉まで出て来つつ訊いて来られるのへと、

 「うん、実はちょっとお聞きしたいことがあってね。」

まずはの取っ掛かりなのでと、
肩から提げてたトートバッグから
全部は出さずのチラ見せで話し始めようとした七郎次だったのだが、

 「……あ、それ。」

ちょいとズボラして、片方の提げ紐を二の腕までずらし、
提げたまんまで中をごそごそしておれば。
目線がやや上になっているから よく見えたものか、
間近で見ると絆創膏だらけの手が伸びて、
セーラー服の上へと入れていたスカーフが、
手品のワンシーンもかくやというノリ、するするっと引っ張り出される。

 「え?」 「お?」 「…?」

ちょっと待ってくださいな、その反応ってどうだろかと、
訪問者の三人が眸を点にしかかったのにも気づいたかどうか。

 「え〜、何でどうして? これって何処にあったの?」

やや怪訝そう、やや他人行儀だった態度がガラリと一変し。
あの女学園へ通う誰もが襟元に結んでいる、
何の変哲もないスカーフへ。
今まで何処にいたのあなたと、話しかけかねない勢いの喜色満面。
ご機嫌でしょうがないというモードへと、
いきなり変貌してくださったものだから。

 「あ、あの、一ノ瀬さん?」
 「え? あ、ごめんごめん。」

記名もなければ、どこかの端なぞへの目印らしい差し糸もされてない。
新品ではなくの既に使われているものなのは判るが、
三角にするための真ん中の折り目以外、
直せない折りぐせや 癖のあるしわや汚れなども特になく。
たくさんある中からこれを探せと言われても、
そうそう見分けはつくまい、変哲のなさだのに、

 「あの、何でそれ…。」

こちらこそ、名前の刺繍さえ入ってない制服を持って来て、
“これが物置から失くなっていませんか”と聞きに来たって言うのにね。
ホントはそんなもの見つかってないのに、
私物も一緒だったから…なんて言い訳つきで。
しかもしかも、

 “それ、一ノ瀬さんのじゃないんですのに。”

それもあっての“???”状態、
鳩が豆鉄砲くらうとこんな心境かというほどに、
唐突すぎて展開へついてけない側になっておいでの来訪者らへ、

 「そりゃあ判るよぉ。ずっと使ってたスカーフなんだし。」

あっけらかんと言い放ち、からりと笑って見せたものの、

  「……。」×3

責めてるつもりはないながら、
でもねあのね、それは違うって知ってるもんだから。
こちらのお三方にしてみれば、
何でそう思うんだろうかという違和感が涌いてしょうがない。
手持ちを失くしたところだったので…というだけの理屈かなぁ?
でもでも、

 “……あれ?”

微妙な睨めっこの間合いが何合続いたか、

 「ずっと、って…。」

こちらとしても何で“違う”と判るのかは言いづらく。
去年も通して使ってたにしては真新しいとか、
その辺から攻めてこうかと、七郎次が仕切り直しを構えたのとほぼ同時。

 「…やっぱ、不自然かもだね。//////」

これまた唐突に、一ノ瀬さんの方からそんな風に降参して下さって。
一本取られたぜとでも言いたげな、やはり豪快な雰囲気のまま、
あははーと快活に笑うと、
そのまま…ちょみっと左右を見回すような素振りをし、

 「これ、ホントは私のじゃないんだ。」

何かしらの悪戯が見つかっちゃったかのような、
照れが半分、参ったなぁという困ったが半分というよなお顔で、
ちょっとだけ声を押さえて、彼女の側からそうと告白したのである。






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  *ここまで書いてて訊くのも何ですが、
   皆様は制服って何着持ってましたか?
   もーりんは高校では私服校に通ってましたので、
   一応の基本服としての、
   合服 夏服 冬服を、それぞれ1着ずつ持ってたのですが。
   それだと汚したら替えがないですよね?
   お父さんのスーツじゃないですが、
   スカートだけは2枚とか持ってるものなのかなぁ?


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